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作品概要

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 20世紀後半の日本で書かれた黒井千次の短編小説「たまらん坂」は、19世紀後半に誕生した名作「武蔵野」(国木田独歩)を継承した武蔵野文学です。土屋忍(武蔵野大学文学部教授)と小谷忠典(映画監督)は、2015年7月から「たまらん坂」の映像化に着手しました。始まりは「日本文学文化研究調査実習」という授業の一環であり、日本語で書かれた小説の言葉とその時代、舞台となる場所を深く理解することを目的として取り組みました。本作主演の渡邊雛子を含めた受講生11名が母体となり、その後は他大学を含めた有志の学生や卒業生50名以上が参加し、また原作者・黒井千次氏の全面協力、俳優の小沢まゆ氏、渡辺真紀子氏、古舘寛治氏の出演、若手注目のアニメーション作家・大寳ひとみ氏の参加などにも恵まれ、4年の歳月をかけて完成に至りました(2019年/モノクロ/86分/5.1ch)。2024年に100周年を迎える武蔵野大学は、映画『たまらん坂』を100周年記念事業の一環として支援しました。英語字幕は、マイケル・ボーダッシュ氏(シカゴ大学教授)が監修しています。この映画を、20世紀までに生を授かった全ての人たちと、21世紀生まれの全ての若者たちに捧げたいと思います。

小説『たまらん坂』

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 「登り坂と降り坂と、日本にはどちらが多いか知っているかい」という主人公(飯沼要助)の不思議な問いかけから物語は始まります。中年サラリーマンの要助が通勤のために登り降りしているのは「たまらん坂」です。漢字にしても仮名にしても少し奇妙な名前の坂ですが、東京都の国立市から国分寺に抜ける通りに実在しています。要助は「たまらん」の意味が気になり由来を探っていくうちに、我が身を「落ち武者」に重ねて想像を巡らすようになります…。黒井千次氏による連作「武蔵野短篇集」の第一話。初出は『海』1982年7月。初刊は1988年7月。現在は、講談社より発行されています。

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小説家 黒井千次(くろい せんじ)

 1970年『時間』で芸術選奨文学部門新人賞受賞。吉井由吉、後藤明生、阿部昭、秋山駿らと共に「内向の世代」と呼ばれる。『群棲』(1984)で谷崎潤一郎賞受賞。その他主な作品に、『カーテンコール』(1994)、『羽根と翼』(2000)、『一日 夢の柵』(2006)などがある。1987年から2012年まで芥川賞の選考委員を務め、現在、日本芸術院院長。

キャスト・スタッフ

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俳優 古舘寛治(ふるたち かんじ)

多くの映画、テレビ、舞台で活躍している。深田晃司監督の『淵に立つ』(2016年・日仏合作)で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査員賞を受賞。

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女優 渡辺真紀子(わたなべ まきこ)

多くの映画、テレビ、舞台で活躍している。中野量太監督の「チチを撮りに」(2013年・日本)で第55回アジア太平洋映画祭の助演女優賞と第7回アジアン・フィルム・アワードの最優秀助演女優賞を受賞。

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女優 小沢まゆ(おざわ まゆ)

奥田瑛二監督作品『少女 an adolecent』(2001年)で、パリ映画祭主演女優賞受賞。

監督 小谷忠典(こたに ただすけ)

『いいこ。』(2005)が第28回ぴあフィルムフェスティバルにて招待上映される。『LINE』(2008)、『ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ』(2012)、『フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように』(2015)など。これまで20ヶ国以上の国際映画祭で招待・入選を果たしている。

プロデューサー 土屋忍(つちや しのぶ)

武蔵野大学教授。主な著書に『南洋文学の生成―訪れることと想うこと―』(2013)、編著に『武蔵野文化を学ぶ人のために』(2014年)などがある。NHK『絶景 巨大石柱林~中国・張家界を鳥瞰する~』(2017)の台本にも携わる。

アニメーション作家 大寳ひとみ(おおたから ひとみ)

東京藝術大学院在学中の監督作「おもかげたゆた」(2016)が、イメージフォーラム・フェスティバルにて寺山修司賞受賞。

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アニメーション作家・大寳ひとみによるワンシーン

クレジット

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『たまらん坂』(2019年/モノクロ/86分/5.1ch)


出演

渡邊雛子
七里圭
渡辺真起子
楊昆鵬 康衆軼 李瀟
Richard Emmert Emma Spreng Mahide Jacques
石上和敬 久富健 角田将崇 大江悠司 平野真衣
梅地亮 橋野杏菜 内山薫 土屋湊
鈴木拓夢 山田航大 毛利晋久 関洸輔 中島聡太郎 真壁駿
片山遥 高木凛々子 中添ゆきの 池田聖香
東京工学院専門学校学生の皆さま
武蔵野大学学生の皆さま
黒井千次
小沢まゆ
古舘寛治

撮影

倉本光佑 小谷忠典

録音

柴田隆之 永濱まどか 土屋忍

助監督

溝口道勇 老山綾乃 角田将崇 小幡優芽美

制作

野本理沙 刑部真央 山本裕子 松井優香 梅地亮 大野秀美 畠山遥奈 田中美和 橋野杏菜 小亀舞 黒澤雄大 山路敦史 平林武留 加賀見悠太

HSR操作

中島佳昭 池田幸一

企画

土屋忍

脚本

土屋忍 小谷忠典

脚本協力

大鋸一正

映像合成

西埜寿

タイトルデザイン

hase

アニメーション

大寳ひとみ

子守唄

松本佳奈

整音

小川武

編集

小谷忠典

音楽

磯端伸一 ギター・磯端伸一 ピアノ・薬子尚代

使用楽曲

『ロックン・ロール・ショー』『多摩蘭坂』・RCサクセション

ヴァイオリン演奏曲

『4つのヴァイオリンのための協奏曲 ロ短調 Op. 3 No. 10 RV 580』・Antonio Vivaldi

使用文献

『角川日本地名大辞典/東京都』 『国立風土記』 『わが町国立』 『国立・あの頃』

写真提供

くにたち郷土文化館 武蔵国分寺跡資料館 株式会社サトウ

英語字幕翻訳

Don Brow

海外セールス

CaRTe bLaNChe

衣装協力

株式会社マイム 株式会社鈴乃屋

撮影協力

音楽スタジオジュン 光明寺 香念寺 増田書店 くにたち中央図書館 滝乃川学園 谷保天神 花園養蜂場 日本近代文学館 武蔵野大学(武蔵野キャンパス・有明キャンパス・むさし野文学館)

協力

阿部千秋 飯田妙子 飯田好美 小谷文葉 藪本千絵 小松俊哉 三浦理恵 御園孝 加藤綾佳 山口洋輝 大澤一生 山内大道 明石修 下村達郎 斉藤竹史 深澤茜 飯田和輝 光成菜穂 松浦駿亮 岩城賢太郎 柳田典子 宮川健郎 本橋一聰 滝野弘仁 三田誠広 Michael K. Bourdaghs
早稲田奉仕園 TOYOTA 講談社 武蔵野大学

原作

武蔵野短篇集『たまらん坂』黒井千次

製作

武蔵野文学館

プロデューサー

土屋忍

監督

小谷忠典

コメント

  • 小谷監督のドキュメンタリー精神が物語と融合した「たまらん坂」は予期せぬ映画だ。黒井千次の「たまらん坂」が原作だが原作から自由にストーリーを創りあげ、たまらんという感情を表現する言葉のイントネーションの響きをみごとな奥行ある物語に仕上げられている。そしてモノクロームの静謐な時間の中で、現実の女子大生が不思議な虚実の存在感を表している。

    ― 石内都(写真家)

  • 本を読むということは、その言葉たちから何かを受け取るということな気がしています。目で文字を追い、言葉が頭に入り、自身と混じり合うことで新しい自分に出会う。それは誰もが唯一無二の体験をできるということ。現実世界で葛藤するひな子に手を差し伸べた「たまらん坂」のように、自分に手を差し伸べてくれる一冊の本にいつか出会えるかもしれないという希望のような気付きを受け取ることができた映画でした。

    ― 小谷実由(モデル)

  • 原作者の小説家、黒井千次がイマジナリーな存在として登場し、言葉で造られしものの実存性を語るのだが、フィクションにドキュメンタリーが混線するシーンは映画芸術の虚構性を明らかにしているようで、興味深かった。処世の作法を知り、澄んでいた瞳を曇らせてゆく主人公・ひな子を前に、老小説家は言葉を詐術に貶めることの愚かさを、諭していたのではなかったか。

    ー 諏訪敦(画家)

  • すべての坂にはたぶん名前とその由来がある。そしてすべての人間には例外なく個的な来歴がある。文庫本を片手に地名をたどる日本語への旅は、いつしか自身のルーツを武蔵野にたどる主人公の道行きにぴたりとかさなってゆく。この映画では、土地も人間も、まるで頁をめくられるのを待つ本のように存在している。

    ― 萩野亮(映画批評・本屋ロカンタン店主)

  • 小谷忠典監督の求める出会いの回路は、沖縄でもメキシコでもこの武蔵野でも、まだだれも歩いたことのないものだ。原作小説から映画へ、こんな関係でつながれた例をほかに知らない。小説を読むことをとおして知るべきことに向かい、自分のふるさとを発見するヒロインひな子。故郷喪失の主題の先へと踏みだす新たな映画の使命が、何を写して何を写さないかを考え抜いたストイックな白黒映像で、告知されている。

    ― 福間健二(詩人・映画監督)

  • 解釈によって、一つの「坂」が自由な広がりを見せる様が面白い。主人公はゆかりの地と人を訪ねながら、失われた幼い頃の記憶を取り戻していく。それは、目の前にある坂の存在に気づくことであり、川の流れを見つめること、亡き母の唄を聴きとること。よるべない小さな存在に思えても、人は土地に組み込まれて生きている。たまらん坂に導かれよう。上質な故郷(母)探しの物語だ。

    ― 文月悠光(詩人)

  • 「あなたは想像上の人物ですよね?」読者のひな子の問いに、作者の黒井千次が返した言葉に導かれるようにして小説と映画が自在に往還する。故郷を探して葛藤するひな子と、逆上して坂道を駆け降りていった若き日の妻の姿が交錯する。郷愁を誘う美しいモノクローム映像と、忌野清志郎のやるせない歌声が響き合う。まるで現実と虚構のあわいを辿りながら一冊の書物を読み終えたようなスリリングな映画体験だった。

    ― 盛田隆二(小説家

  • ゴダールの『アルファビル』のようにとまでは言わないにしても、「今」がまるで近未来のように描かれ、やがて時制と空間が縦横に交錯し、生者と死者が往還し、朗読される小説の主人公がいつのまにか映画の主人公に乗りうつる。たまらん坂を上った先(下った先?)に、今度はアリスの「不思議の国」が待っているかのよう。川と記憶は静かに流れ、滞留し、その川面にアリスならぬオフィーリアのごとく身をまかせた主人公が、最後の最後で自分自身を再生させるラストシーンには、やはり「感動」の一言が相応しいと思う。

    ― 万田邦敏(映画監督)

  • 映画と文学を横断し、過去と現在を織り交ぜ、様々な映画ジャンルと結び、苦しみと優しさを抱き合わせた作品を作る。簡単にできるものではない、なんという野心!全てが挑戦でしかない!
    困難と思われた全ての課題は、例えば野原でバッハの曲をバイオリンで弾く女学生のシーンに見られるような、絶え間ない魔法と信じられないくらいの正確さを持つ強い作家性と大胆さで見事に克服されていました。

    ― ジャン=ピエール・レム(マルセイユ国際映画祭総合ディレクター)

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